蛇谷 りえ / JATANI RIE

GG

グレングールドの本を読んでる。あるときグレングールドがいろんな国でコンサートをしてるときに、怪物ピアノとあたってしまい、どうやってもうまく弾けないピアノで、まじでどーしよ!と障壁があった。逃げるわけにもいかないし、どうしようもなくて、レンタカーにのって、コンサート会場からずいぶん離れて、今日のコンサートをやり遂げる唯一の方法は、自分の知る限り最良の触感的環境を再現させることだ、と思いついて。自分の家で長年つかってるピアノの触感を再現したらしい。車の中で。自分の家の居間にあるピアノまで想像をめぐらせて、ピアノを映像化したという話がある。そのとき指は動かさずに。このイメージを失わないように会場にもどって無事にコンサートを終わらせたらしい。またあるときは、全然弾けない譜面の箇所があって硬直した。どうしようもないので、思い切って曲目を変更しようかなと思うほど、なんとかしないといけない状況になったときに、最終手段でピアノの横に二台のラジオを大音量で流して、自分の弾いてる音を聞こえないようにすることで、自分の失敗が聴覚的に明らかにならないようにした。そうすることで、問題が分解されて、次の解決策が見えてクリアしたという。それでもまだ準備が万端でなかったら、コーヒーを飲んだり、ほかにもいくつかの口実をつくってから、ピアノに向かって、障壁が消えてるかどうか試す。そうしていたら、お気に入りの公演曲目となったらしい。結局、どんなピアノを弾くときでも触感の問題はさけられない。だからこそ、その現実認識をそっくり拭い去るようなピアノへの接し方を、まず見つけることが肝要なのです。とGGはいう。問題を分解して、平方根を求める。それが求められたら平方根に関わるあらゆる状況に順応する。それにはピアノに向かうよりもたっぷり前から曲目を知り、そして触感を超えた体験をする。そうすれば、ピアノによるあらゆる干渉を抑えられる、とのこと。GGおもしろすぎる。

2015年12月29日 BLOG