蛇谷 りえ / JATANI RIE

おはなし

シロとクロは、2人でいても話をあまりしない。シロとクロは別々で生活をしていて、シロはクロが毎日なにをやってクタクタになったり、気持ちが高ぶったりしているのか、具体的には知らないけれど、それでも、クタクタになったクロのことを癒し、励ましたりしていた。クロもまた、シロが毎日なにがあって、腹ぺこになるまで夢中になったり、絶望した気分になっているのか、具体的には知らないけれど、ごはんをゆっくり食べることや、それでも未来は明るいことを教えてくれた。シロとクロは、いつもいっしょにいるわけじゃなかった。それでも、毎日「お腹がすいたよ」「クタクタや」と状況の断片を話して、お互いのことを受け止めあった。

シロとクロは、たまに2人でいっしょに時間を過ごす事があった。会ってお互いの今まであったことを特に言葉で話すわけでもなく、空気ごと感じ取る行為をする。2人が、それぞれにしようとしてること、その先をイメージするように、言葉に発する呼吸やタイミング、声のボリュームから読み取る。だから、2人は言葉を発しなくても、理解し労り、やさしく時間を過ごした。散歩をすれば、風の流れるままに歩き、海にいけば、波に体をなじませて、静かに浮かぶ。お腹がへったら、そのとき食べたいものを考え、お腹いっぱいたべる。その間、思いついたイメージの羅列を言葉にして、くすくす笑った。

シロとクロは、お互いに要求はしなかった。シロはがまん。と認識してたけど、そうではなく、必要じゃないと無意識に判断して言葉にしなかった。クロが毎日なにかしら外でのいろんな制約の中でクタクタになっているのであれば、せめて2人の中ではクロの好きなようにものごとを選び、クロの時間を大切に過ごしてもらいたいと願っていたからだ。クロが楽しそうに笑っていたり、悩みながら成長していくありのままをぜんぶ見ていたいと思ったから、シロはクロになにも言わなかった。何も言わない、というのは孤独でもあった。クロがそのままどこか遠くへいってかえってこないことだって考えられるからだ。でも、クロに要求し、それを信じる行為を通して、すべてをクロに委ねるほど、シロはシロ自身をどうしても手放せなかった。シロはシロ自身の孤独に気づいた。きっとクロもクロの孤独に気づいてる。その孤独を他のものでごまかして忘れないために、シロは、クロとまた会えるときまで、目の前の世界を絵に描いた。クロもまた、シロとまた会えるときまで、クロの目の前を過ごすことにした。

2011年07月08日 BLOG