蛇谷 りえ / JATANI RIE

いつか長い小説みたいなものを書きたいと思ってる

鳥取での暮らしにはまだまだ慣れず、大阪での暮らしがどれだけ落ち着いていたのか、実感する。会いたい人にも会いにいったり、ふらふらと歩いて遭遇した流れでお茶したり、なんてのが最近ない。

鳥取では、日々の生活費や小遣いを稼ぐために、魚屋さんの仕出しのお手伝いと同じ町内にスナックのママさんがいて、そのスナックのお手伝いをしている。魚屋さんは朝8時から昼ごろまで仕出しの作業。魚屋さんの仕出しは、法事や長期休暇、農家さんの収穫後など、季節によって周期があるらしい。春になって農家さんが働きだしたら、とんと忙しさは減るし、農家さんが収穫祭やなんかで人手が必要になったり、お祝いしたりのときはべらぼーに忙しくなって、親戚中が集まるらしい。この間、仕出しの料理はほとんど魚屋さんの手作りで、季節の旬によっておかずの内容も変わる。お魚はぷりぷりのおおぶりで、野菜も下ろしたて。茶碗蒸しを蒸してるときの匂いはもう、殺人的でそれだけで幸せになる。鯛を焼いたり、煮たり。なかでも、魚屋さんのご主人のじいちゃんのつくる卵焼きはおいしくって、前に差し入れでいただいてから、どんな卵焼きの作り方をしてるのか、のぞきこもうと、チラチラみるんだけど、じいちゃんは寝ぼけながら決まった時間に現れて、あらかじめ用意されたたまごをかきまぜ、たんたんと焼いていく。ガスコンロから出る火が、卵焼き用のフライパンから大きくはみ出て、油の染みこんだ布巾でフライパンをなでていく。くるくる巻いて、お皿にポンとおいて、だまって出ていった。冷まして、適当なサイズに切って盛りつける。ああ、思い出しただけでお腹がなる。その他にも、いわゆる御膳をつくって、車で配達する。長期休暇期間だと、配達先では法事で家族や親戚一同が集合していて、黒尽くめの人たちの中にエプロンをつけた私たちが、御膳を準備する。御膳の台も魚屋さんでもっていて、「ぱたんぱたん」と呼ばれる台は、その名の通り、ぱたんぱたんと音を鳴らして台になる。決められた場所に配膳してると、どこに誰が座ればいいかわからなくなった若い黒いワンピースを来た娘さんが「おばあちゃーん!おばあちゃーん!」とおばあちゃんなる人を呼ぶ。でもすぐに、「おばあちゃんがいっぱい居て混乱するわ」と、あはは。ってなって、何かひどく感動してしまった。30人近い御膳を並べ終え、魚屋さんの掛け紙をして、その場を立ち去る。こうした習慣があるってことは、テレビとか、本とかで知ってるけど、その場に立ち会うことはそうなくて、他人の法事にこんなにも心が動かされるのは、なんなんだろう。安心さえ覚える。

スナックのバイトも、それはそれは興味深くて、ここでは書ききれないので、また今度書こうと思う。私は今、この地にやってきて、この地で過ごす、あらゆる人たちの営みを目撃してる。もちろん、もっとそれ以上の出来事もどこかで起きているんだろうけど、この地に住みながら、なるべく乱暴にしないで、やさしくそれらを見ていきたいし、そうした中で何かを吸収したものを、いつかどこかで何らかの形でお知らせしたいと思ってる。それはいつ完成しいつ完結するのかはわからないけど、し続けたいなと、いう欲求は強くある。もちろん、鳥取に来たら、それらはあなたも見ることができるかもしれないし、できないかもしれないけれど、そんなに欲しいものがすぐに手にはいると思ったら大間違いよね。という心づもりで、ぜひふらりと遊びにきてほしいです。荷物や予定はなるだけ少ない方がいい。もちろん多くてもいいけれど、自分の振る舞い次第で、見えてくるものはぜんぜん変わると思う。

2012年05月21日 BLOG