蛇谷 りえ / JATANI RIE

スースー

便利な立地にあるビジネスホテルみたいな小さなワンルームは、必要なものだけが揃っているあの子らしい部屋だった。ネズミの家みたいな、かわいい小さなものが並んでて、観葉植物が日当たりのいいところに飾ってある。必要最低限の調味料、白い部屋で寂しいから、絵を飾ってみたり、自分の作品を広げてみたり。服はほんの少ししかない。同じ部屋の空間で、バラバラの布団で寝るのは、一人で寝るよりも安心した。寝息が少し遠くで聞こえる、兄弟のような、親近感のある安心。こんな気持ちで眠るのは何年ぶりだろうか。空気は寒いけど、あたたかい気持ちになった。朝起きたら、光がきれいに差し込んでいて、柿の上に使いやすい包丁が乗せてあって、テーブルの上にある手紙を読む。お湯を沸かして、パックの紅茶を飲む。誰もいない部屋で食べる。なんてことない食パンとバターだけど、柿が美味しくて、贅沢な気分になる。駅前の喫茶店でモーニングを食べるよりも、豊かな朝ごはんだった。あの子はもう、東京だろうと、島だろうと、どこにいても自分の大切なものが何かを知っている。出会ったときよりもストイックになっていて、清々しい気持ちになった。

2017年11月04日 BLOG