蛇谷 りえ / JATANI RIE

かえってきた

かえってきた、というのか、もどったというのか。いや、もどってはない。何かしら時間旅行のおかげで前には進んでる。広島にいってきた。とある映画を観に。映画を観る前に、切りたかった髪の毛をいつもの美容室に予約したら、誕生日が空いていて、朝に仕事をもりもりやって、汽車に乗り込む。こういうときに限って、月に一度の超敏感な日になって、走るのも嫌だし、エアコンも嫌だ、ズボンのベルトの硬い感じも嫌だ。といやいや状態で、とりあえず、最低限の荷物をもったし、まあよしとしよう。駅について、慣れない町を歩く。たしか、あっちの方だったと。車で通らない道を地図もなく歩く。スマホをみながら歩くのが嫌いだから。直感を頼りにするが、敏感すぎて、視界があっちこっちして、方角がわからなくなってると、遠藤さんの薬局の看板を見つける。ここにあったのか!と通り過ぎようとするが、まだ予約の時間があるし、入ってみる。ずっと咳が止まらなくて、整体にいったときに、肝臓がよわってると言われたから、そのようなことを入ってすぐに話をしたら、診断シートなるものを渡されてチェックしていく。目、腰、首、など体の部分から状態をチェックし、睡眠、食欲、精神などまでチェックしてるとしんどくなる。しんどいなーと思ってたら、先生らしい人がきて、診断されて、「衛気が足りません。」と言われる。そんなめっちゃ足りない感じではないらしいが、「春はいろんな外的障害が多いのに、免疫力が低下してますねー」「心配性ですか」とか、わりとグサグサささって、さらに弱る。だからかー。春め、畜生。お薬もらって、治りそうな気分になったところで、店を出る。予定の時間がすぎてしまって、急いで歩くが、方角が完全にわからなくなったので、電話をする。きょろきょろしながら歩くと見慣れた道にきて、到着。頻繁に来ないけど、気をつかうところでもないので、髪の毛を気持ち良くあらってもらいながら、近況の話もほどほどに、髪の毛の話に入る。のばそうと思って、と伝えると、いろいろ聞いてくるので、また混乱してしまって、任せると伝えたら。「じゃたにさんの伸ばすはそういう意味じゃなかったね」と一言謝られて、集中し始める。いつになく、黙ってるので、私もどうでもいい話をやめて、切られることに集中する。1分ぐらい。無言。と思ったら、電話がなって、空気が変わる。「あー」と言いながら、流暢に予約を受け付け再び切り始める。無言。うろちょろして、無言。2分ぐらい。ジョキジョキジョキと変な髪の毛の持ち方をして、切り落とした後、「気持ちいい〜」と言葉をこぼすので、(私もー)と髪の毛が動かないように小さく笑う。あっというまに切り上がって、ちょうど1時間で完成したが、私が遅刻した分、次の人を待たせてしまった。ごめんなさい。切り終わって、メガネ屋にいこうとしたら、水曜日休みやって、そのまま駅の方に向かう。また迷うとあれなので、きた道で帰ると、蕎麦屋があると聞いたので、さっきの遠藤さんの薬局の近くの蕎麦屋をのぞくと、営業していたので、入る。やまかけそばを食べる。そば茶もおつゆも美味しい。安い。満足になって、駅へ再び。特急列車に乗って、岡山経由で広島へいく。18きっぷでいきたかったけど、どこにも売ってなかったので諦めた。持ってきた本を読む。体が冷えてるので、カーディガンを羽織る。本を読んでるはずやのに、言葉のなんかに反応して、ドキドキしたり、思い出しては涙を流したり、感情がぐちゃぐちゃする。疲れて眠る。また本を読む。

広島について、友達と待ち合わせをしていたので連絡をとる。気持ちが最悪に落ちているので、どんな顔して会おうかと戸惑う。友達が写真だけ送ってきて、ここにきて。ヒントはこれ。というので、クイズみたいでおもしろくなって。その辺にいたおじさんに、ここはどこですか?と聞いて、一発解決。行き先が決まる。親切に教えてもらった番号の路面電車に乗り込む。広島にきたのは、初めてかなーとあちこち見てたら、駅前の銀のおしりみたいなモニュメントをみて、記憶が蘇る。でも、それ以上は覚えてなかった。路面電車はオランダにあるようなかっこいいやつだった。静かでスイスイ動く。窓からは古いものと新しいものがごっちゃになってる町並み。外国にきたみたいでテンションあがる。駅からすぐにこんな電車に乗れるなんて、このアプローチは町としてはまりすぎてる。原爆ドーム前について、写真の場所を探す。公園みたいになってて、原爆ドーム、記念碑をのぞむように眺める。奥行きがあって、神妙な雰囲気。何がそうさせてるのかなーと考えながら、ぼーっとする。外国人観光客も学生が目立つ。川が流れててのどか。チャイムみたいな音楽が遠くの方から聞こえる。写真の場所について、友達と合流する。時間があまりないので、とりあえず、お好み焼きを食べに行こうと移動する。イサムノグチの大橋を渡る。石造りの、橋らしくない橋。お好み焼きってケーキみたいでいいよね。と、気の効いたことを言って、お祝いしてもらう。カウンターにあるテレビには野球が流れていて、広島カープががんばっている。向かいにはサラリーマンらしいおじさんたちがお好み焼きをほおばっている。お好み焼きもおいしかったけど、牡蠣のバター焼きがめっちゃおいしくて感動する。鉄板でさくっと焼いてただけやのに。もっかい食べたい。

友達を駅まで送って、別れた後、ホテルを探す。予定を決めるのが嫌だったので、気分で決めようと目処をつけてたゲストハウスに電話をするが満室。他に見慣れた看板のホテルを探すが満室。他にホテルらしいところを探すが雨が降ってきて、急ぐ。1軒、2軒まわっても満室で、はてどうしよーと。もう1軒いったら、「今日は野球のお客さんでシングルは満室ですが、ツインが空いています。」と特に清潔な感じもないお兄さんに丁寧に言われる。さすが広島!と感動しつつ、ツインでいいです。とお願いする。鍵をもらって部屋に入る。久しぶりのビジネスホテル。贅沢気分を味わおうと、エアコンをつけて、お風呂にお湯をはって本を読んだり、ベッドでストレッチしたり、テレビをみたり、お茶をわかしてみたり、もう一個のベッドに荷物をがさごそ広げたり、グータラするが、飽きてきたので眠りにつく。

朝、少し早めに目覚めたので、今日の行き先を決める。お昼に映画をみるから、朝は友達が是非と教えてくれたので、世界平和記念聖堂へいく。チェックアウトの時、雨がざーざーで傘がなくて困ってたら、フロントマンが差し上げます。と、新品のビニル傘をくれた。優しい。そのまま、お気に入りの電車に乗り込む。方角だけ地図で確認して、ビルの間を歩いていくと、気配が流れてきて、すぐさま見つけた。見つけた聖堂は、10年前、友人の結婚式にきたことがあった場所だった。22歳のとき。サプライズで会社の人らと車でこっそりきて、出席した。8mmフィルムのカメラで撮影もしたっけな。静かな聖堂のなかを、当時の風景を思い出しつつ、一人でうろちょろ眺める。当時、見えてなかったものが今、鮮明にみえる。当時もこの建築の何かに感動してたのに、今はまた違う感動が出てくる。キリストの顔、あんなんだったのか。ステンドグラスの光がかっこよすぎ。しかも全部石。信じられん。とオロオロしながら、一周して出る。興奮が冷めないので、ふーふー言いながら、見つけた喫茶店にはいって、モーニングを食べる。雨がまだザーザー。よぼよぼのおばあちゃんが向かいのパン屋で買い物してるのをみるが、特になにもおもわずに、ただ眺めた。

映画館の場所が違う駅なので、すこし早めに移動する。5時間もある映画なので、緊張してくる。もっかいお好み焼き食べようかな、とよぎったが、緊張して食欲ない。最寄り駅について、映画館の前までいくが、時間があまったので、友人にお土産を買おうと駅にもどってスーパーに入り、広島産を探しまわる。台湾にいってから、自分の興味がわりとわかってきたので、選ぶのにそう時間もかからなかった。まだ時間があったのと、雨で足元が冷えてきたので、映画館近くの喫茶店にはいってコーヒーを飲む。ランチタイムでおかずの匂いが漂う。おばちゃん二人がやってる。ホットコーヒーに、ミルクがついてくるかと思ったら、ホイップクリームがちょこんと盛られた小鉢がでてきて、驚く。でも、ミルクはつかわないから、申し訳ない気持ちでそれを眺めた。映画が始まる時間になって、お会計をすませて、そそくさ向かう。受付をして、トイレにいって、深めのシートに腰をかける。映画が始まる。佐野洋子の本を読んでいたのでなんだか赤裸々な文。

2016年04月08日 BLOG