蛇谷 りえ / JATANI RIE

5月の朝

次から次へと、いろいろある。ぐるぐる、巻き込まれていく。なるべく、いろいろ見えているけど、シンプルなことだけ見ていようと、気持ちだけはじっとさせようとしてはいる。なるべく遠くのほうをみてみたり、目の前と違うことを考えてみたり。

朝、早起きすると家にはいい風がふくので、全部の窓をあける。玄関のドアもベランダも。犬を外につないで日向ぼっこさせて、短めのカーテンの下から犬のようすをのぞきながら、パソコンにむかう。いつもは玄関口に犬が寝そべっているけれど、お座りして塀の向こうをみて、尻尾をふっているのでどうしたのかと、眺めていたら、塀からにょきっと生えた小さい腕が座った犬の頭をなでようとしていた。クスクス小さな声も聞こえる。かわいいね、ふわふわだね、って犬になんか話しかけていて、わたしが声かけると消えていなくなりそうなので、そーっと近づいて、その細い腕と犬の写真を家の中から撮ろうと、カメラを構えて息を潜めた。ちいさい彼女は、どうやら、塀に隠れて、わたしにばれないように触ろうと試みているが、犬が動くので彼女のきている黒と白の水玉のワンピースがちらほら見える。思わず、近づきすぎて、犬がこっちを見てしまい、彼女はわたしに気づいてしまったけど、彼女と目を合わさず、だまって笑って犬をみる。またパソコンに向かっていると、小さい声が聞こえなくなって、彼女はいなくなっていた。

2018年05月04日 BLOG